2022年10月25日(火)と10月28日(金)、「町田の里山を生かすコミュニティづくり2夜ONLINEフォーラム」を開催しました。

このフォーラムでは、町田市北部の小野路・小山田一帯に広がる「北部丘陵」と呼ばれるエリアで、里山を保全してきたNPOや里山を生かして仕事をしている起業家などをお招きして、それぞれの思索と実践をシェアし、これからの町田の里山をサステナブルにしていくにはどうすればよいのかを考えました。


第1夜には、フットパス運動を展開されているNPO法人みどりのゆびの事務局長・神谷由紀子さん、無農薬有機栽培で農作物を育てているおおるりファームの青木瑠璃さん、里山をフィールドに自然体験・環境教育プログラムを提供している一般社団法人まちやまの代表・塚原宏城さんから、それぞれの活動についてお話いただきました。

神谷さんは、能ヶ谷の自然保護・開発反対運動に関わったもののうまくいかなかった経験をもとに、まずは足を運んでもらうことが大事だと考え、活動のやり方を変えました。里山を歩くウォーキングイベントを開催し、地域の方々に郷土料理を出していただくと、多くの一般参加者を集めることができ、また、従来は対立しがちだった地元住民とも協力して活動を進めることができました。また、イベントがなくても、興味のある人が里山歩きを楽しめるようにと道標を立て、マップを作るなどの活動もおこないました。神谷さんは、あくまでも里山を守りたいと思って始めた活動でしたが、これがイギリスのフットパス運動に通じるものであることがわかり、町田市内はもちろん、現在では全国でフットパスをつくり、地域の活性化をめざす運動として展開しています。
青木さんは、2013年に農薬・化学肥料不使用の自然循環型農業を志し、町田市の斡旋により休耕農地を借り受けて新規就農しました。各種体験・イベントが集まるプラットフォームaini(アイニー)を通して集客し、質の高い里山体験プログラムを提供しています。親子向けのプログラムでは、いかに子どもが飽きずに里山で過ごせるかを工夫して一日のスケジュールを組んでいます。また、HATARAKU認知症ネットワーク町田と協働して、認知症の当事者の方とともに竹林整備の活動にも取り組んでいます。一方で、もともと遊休農地だった畑なので、農業で収益を上げることの難しさも感じています。
塚原さんは、2015年に①町田の里山、②都市と自然(里山)をつなぐ、という2つの意味を込めて、「まちやま」を設立し、環境教育・ESD(持続可能な生き方のための教育)を実践してきました。一年を通して里山の四季を感じる・味わう体験イベントを主催事業として実施していますが、行政や大学などから体験事業を依頼されることもあります。最近は、自分で活動を引っ張っていくという立場ではなく、里山をいかすコミュニティが自ずとできる場づくりを進めており、サービスの提供者と消費者の枠を超えた関係ができています。個人や社会に対して価値を提供し、それ相応の対価が得られる仕組みを生み出すために、里山が仕事の場になるように活動しています。
3人による話題提供の後、視聴者の方にもご参加いただき、議論を深めました。たとえば、青木さんと同様に新規就農したあした農場の渡辺恒雄さんからは、地元の地権者にも議論の輪に参加してもらう必要性が指摘されました。また、農地でさえ仕事にすることが難しいので、森林ではもっと難しいという現実の重さも提示されました。


第2夜には、子ども向けの自然学校やアート活動をおこなっているNPO法人さんさんくらぶの理事長・薗田碩哉さん、町田市と協働して谷戸の自然再生・里山保全活動を実施しているNPO法人まちだ結の里の副代表・鶴岡秀樹さん、竹をテーマに参加者が楽しむ活動を展開している小野路竹倶楽部の牛腸哲史さんから、それぞれの活動についてお話いただきました。

薗田さんは、1979年に多摩市内で自主幼稚園を始め、子どもたちが自然の中でのびのびと育つように町田の里山を「園庭」として幼児園活動をおこなっていました。この活動は終わったのですが、2003年に園児・卒園児の父母を中心にNPO法人を設立し、里山自然学校や自然の中でのアート活動を進めてきました。町田市の「北部丘陵」は多摩ニュータウンと隣接しているので、多摩市や八王子市の関係者との連携にも期待を寄せています。
鶴岡さんは、まず里山保全活動をおこなっている「奈良ばい谷戸」の歴史を話されました。1990年代後半まで稲作が続けられていた谷戸が、耕作放棄されて荒廃し生物の多様性も急速に低下した後、2005年から町田市が近隣の農業者の方々の指導のもと再生活動を始めました。このとき市の募集に応じた市民が中心となり、2007年に市民団体「奈良ばい谷戸に親しむ会」を発足、2009年にNPO法人まちだ結の里を設立しました。法人化から10年以上が経過しましたが、町田市からの受託事業によって地域の伝統的な農業を続けてきたことで里山の動植物は増え、自然再生を果たすことができましたし、目籠(メカイ)の技術伝承もおこなっています。一方、現在の会員数では現状の面積で手一杯であることや、近年はナラ枯れ被害の急拡大しており安全管理上の問題が発生していることから、行政が積極的に問題解決に当たる必要があると考えています。
牛腸さんは、2020年に町田市の「まちだ○ごと大作戦」のチャレンジ事業として始まった「小野路里山活用プロジェクト」から小野路竹倶楽部が生まれたこと、現在は「竹の力で心と身体の健康を考える!」をテーマに竹灯り芸術祭、流しそうめん竹のワークショップなどを開催しているほか、放置竹林問題の解決策の一つとしてメンマづくりにも挑戦している様子を話されました。また、町田市の里山担当課長として、「町田市里山環境活用保全計画」の概要についても説明されました。
第2夜も、3人による話題提供の後、視聴者の方にも参加していただきながら議論を深めました。どうすれば里山で儲けられるのかという話に傾きやすいのですが、もともと土地生産性が低い里山で収益性の話にこだわると課題を解決することが難しくなります。市場的なアプローチが難しいならば、社会的な解決としてコミュニティづくりというアプローチがあり、また、政府・行政による施策もあります。どれかに偏るのではなく、総合的に考えることが求められます。
この企画の発案者(松村)としては、町田市の里山環境活用保全計画が、それまでの北部丘陵活性化計画を評価しないまま、ほとんど連続性のない行政計画であること、また、地区によっては具体性の乏しい浅い計画であることから、この状況に危機感を抱いて、まずは市民側で情報を共有して課題を共有できればと思っていました。今回、牛腸さんから、これまでの計画が実現性の乏しいものであったことから、自主的な取り組みを支援する方向へと考え方を変えたという話をうかがい、この方針転換の理由を理解したのですが、それならば、そのことを計画に書きこむべきであったと思っています。もうすでにこの計画に基づいて事業は進んでいますので、今さら計画を変更せよと主張するつもりはありませんし、町田市が多様な主体との連携・共働して、「新しい里山」を作ろうとしていることは評価しています。今後は、行政、地元の地権者(小田急を含む)も交え継続して話し合う場を設けながら、町田市の計画を肉付けし、意欲のある団体・事業者が活動に取り組みやすい環境をつくること。そのためには、行政の里山保全計画や森林環境贈与税・ふるさと納税等の資金調達も含め、行政との協働関係も強化することが必要だと課題を整理できました。


参加者アンケートより

  • 皆さんが実践されている豊かな自然体験活動が素晴らしいと思いました。非日常から半日常へという言葉がありましたが、イベントではなく生活の一部ととらえていけたら素敵だなと思いました。地権者である農家の人からすれば、それはまさに生活そのものなのだと思います。豊かな自然や様々な知恵がつまった里山を残していくための後継者が育たず、放置されていくのは本当にもったいないことだと思いました。仕事化というのは一つの方向性としてありだと思いますが、どう仕事を創出していき、人を雇う財源を確保するかは・・・大きな課題になっています。
  • フットパスや子ども達の遊び場(学び場)、高齢者の活動の場などで活動されている町田の方々を知れて嬉しかったです。農家生まれの私は、先祖から受け継いだ田畑や山を管理できてはいないけど他人に荒らされたくはないと思う気持ちがよくわかります。耕作放棄地を放置するのは環境や経済の面からも良くないので、農家が安心して他人に耕作してもらえるような方策があればいいなと思いました。
  • 新しい入会、企業版ふるさと納税、森林環境贈与税(特に区部からの多摩丘陵へ)など検討したいと思うアイデアが聞けたのは収穫でした。一方、長きにわたり活動を継続することのむつかしさも感じました。里山が生み出す価値に共鳴する人、団体を増やす必要があります。
  • 里山が、使う人自らが感性を磨き、学びを見出す「文化的で人とのつながりを求めている人に魅力的な場」であると改めて感じました。その一方で、景観の保全に重きを置く「地味な活動を黙々と作業をすることが得意な人も活躍できる場」であると思いました。後者については、モチベーション維持のため、実績をしっかり評価することや、新たな目的意識を生む交付金が受けられることが今後重要ではないかと感じました。私有地については、色々な考えを持つ人がいると思いますが、町田市には、粘り強い丁寧な人材配置や、企業や区部を巻き込んだ財源確保を、里山の活用と保全のためにより具体的に進めていただきたいなと思いました。
  • 鶴岡さんにお話しいただいた、まちだ結の里の運動史・現代的な里山管理問題から学ぶ点が多々あり大変参考になりました。また、薗田さんのさんさんくらぶについても、森のようちえんが概念化される遥か前から同様の活動を行われていたことに感銘を受けました。第1夜・第2夜を通して町田北部の里山の魅力がよくわかり、実際に訪れてみたい気持ちになりました。
  • 地域全体で里山の利用は、残念ですが進める事は難しいかと思っています。理由は、この春に町田市で策定された牛腸様より案内のあった、計画について非常にがっかりする物だからです。また、それぞれの組織が一体になって活動するのは、利害の違いから難しいと感じています。
  • 各団体毎に違いはあっても里山を愛し里山で活動する点は共通しているため、今後は町田市も絡む里山連絡協議会のような緩い組織で共に里山を盛り立てて行き行きたいものです。
  • 「里山での営みを生業としているか、生業ではない形で関わっているかによる、違いを感じることがある」というようなことをおっしゃっていましたが、私はそのような違いを「乗っかっている土俵が違う」と表現します。私は・・・自分とは違う土俵で里山を見つめながら関わっている方たちの実態や本音を知りたくて、今回のフォーラムに参加させていただきました。町田の里山と関わる接点探しの一環でもあります。・・・私が目標にしているのは「持続可能な食料生産システムを自治体レベルで可能にすること」への取り組みです。持続可能な食料生産システムの構築も、里山保全も、生態学の見識なしには可能にならないと思っていて、ヒトと環境のかかわりあいという意味で、農業も里山も、もっと生態学的に見つめていく必要があると思っています。
  • 第1夜では、行政、特に町田市がどう関わっているのがよくわからなかったのだが、第2夜では牛腸さんがかなり「建前」から踏み込んだ発言をしてくれたことにより、状況の理解が深まった。特に北部丘陵地域では、市の存在が大きいことがわかった。しかし森林については市もうまく関われていないようで、企業版ふるさと納税や東京都23区の森林環境譲与税の活用などに期待されているようだが、この2つのツールについては全国の多くの自治体が秋波を送っており、町田市がその中で支援を獲得していくためには、それなりのアピールが必要だろう。アピールのポイントとしては、担い手としての市民活動の力と里山管理の仕組みと方向性が合意に基づいて明確に示されていることだと思う。このうち前者については、今回の2夜のフォーラムでも示されたように、多様なグループがかなりの密度で活動しており、十分なアピール度を持っているのだが、後者については、里山管理計画に更新後も多くの問題点があるようで、必ずしもアピールできる状況ではないようだ。松村さんが今回のフォーラムを開いた理由は、まさにこの点での現状に対する危機感と実質的な「計画」を市民主導で作っていく決意であったと思われ、その点については一町田市民として共感し、今後の運動の展開に期待したい。

日時

2022年10月25日(火)・10月28日(金)20:00-21:30(開場19:50)

出演者

第1夜10/25(火)
 神谷由紀子さん(NPO法人みどりのゆび)
 青木瑠璃さん(おおるりファーム)
 塚原宏城さん(一般社団法人まちやま)
第2夜10/28(金)
 薗田碩哉さん(NPO法人さんさんくらぶ)
 鶴岡秀樹さん(NPO法人まちだ結の里)
 牛腸哲史さん(小野路竹倶楽部)
コーディネーター:松村正治(Life Lab Tama)

参加者

32名(有料参加者22名)

運営

主催:Life Lab Tama
助成:日野自動車グリーンファンド

カテゴリー: いろいろ

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